こんにちは、大田区中央（池上・大森）の歯医者、谷歯科クリニックです。

高齢になると、加齢による生理的変化や服薬の影響、基礎疾患などにより、さまざまな口腔トラブルが生じやすくなります。
これらのトラブルは口内だけでなく生活の質にも影響を及ぼす可能性があるため、早め早めに予防に努めておくことが大切です。
今回は、高齢者に特有の口腔トラブルの特徴と原因、予防法を解説します。

高齢者に多い口腔トラブル

自浄作用の低下

口の中には、唾液の分泌や舌の動き、咀嚼運動によって細菌や食べかすを自然に洗い流す「自浄作用」があります。
しかし高齢になると、加齢による唾液腺の機能低下に加え、唾液分泌を抑える副作用を持つ薬の服用などが原因でこの作用が低下しやすくなります。
これにより、口腔内に細菌や食べかすが残りやすくなり、虫歯や歯周病リスク、口臭悪化のリスクが上昇します。

虫歯・歯周病のリスク増加

高齢者は、長年の歯の摩耗や歯根の露出により、虫歯のリスクが高まります。
特に歯肉が下がって露出した歯根面は、酸に弱く虫歯になりやすい部分です。
また、糖尿病や心疾患などの基礎疾患があると、歯周病との相互影響でリスクがさらに高まります。
加えて、手指の不自由さや認知機能の低下により、十分な歯磨きや口腔ケアが難しくなることも、虫歯や歯周病になりやすい要因です。

ドライマウス

ドライマウス（口腔乾燥症）は、高齢者に多い症状です。
加齢による唾液腺の機能低下に加え、多くの薬剤の副作用や全身疾患の影響で、慢性的な口腔乾燥が生じます。
唾液は抗菌作用や緩衝作用、潤滑作用などさまざまな役割を持つため、分泌量が減ると口内環境が悪化しやすくなります。

誤嚥性肺炎

誤嚥性肺炎は、食べ物や唾液が誤って気管に入り、肺で炎症を起こす病気です。
高齢になると、咳や嚥下の反応が弱まるため、誤嚥が起こりやすくなります。
また、口の中に細菌が多い状態だと、誤嚥によって肺に細菌が入りやすくなり、炎症が起きるリスクが高まります。
認知症や脳血管疾患などで嚥下機能が低下している場合は、さらに注意が必要です。

咀嚼・嚥下機能の低下

高齢になると、歯の欠損や歯周病、咀嚼筋や舌筋の筋力低下により、咀嚼機能が低下します。
また、加齢に伴い咽頭や食道の運動機能も弱まります。その結果、食べられる食材の種類や形状が制限され、栄養摂取量の減少や栄養バランスの偏りが生じやすくなります。

入れ歯や補綴物の多さ

入れ歯やかぶせ物などの補綴物は、きちんと作成・調整されていれば、咀嚼や会話の維持に役立ちます。
しかし、経年劣化や口腔内環境の変化によっては、さまざまな問題を引き起こす原因になることもあります。
例えば、入れ歯が合わない場合は歯肉や粘膜に慢性的な刺激が加わり、褥瘡性潰瘍や痛みが生じます。
また、清掃が不十分だと細菌が増え、口腔内トラブルにつながります。
部分入れ歯では、残っている歯に負担がかかり、歯周病の悪化や歯の破折リスクが高まります。
かぶせ物や詰め物も、接着剤の劣化や二次虫歯の発生により再治療が必要になることがあります。

高齢者が口腔トラブルを予防することの重要性

口腔機能の維持・向上
日々のオーラルケアにより、歯や歯ぐきの健康を維持することは、咀嚼機能や発音機能の維持につながります。
さまざまな食材をしっかり咀嚼できる口内環境があれば、消化吸収が良くなり、栄養状態も維持できます。
また、咀嚼行為は脳への刺激となり、認知機能の維持にも役立つことが報告されています。

免疫力の維持・向上
免疫力を保つには、栄養をしっかり摂ることが欠かせません。
そのためには、きちんと噛める口の状態を維持することが重要です。
歯の欠損や噛む力の低下があると、食べ物を十分に噛み砕けず、必要な栄養素の摂取が難しくなります。
たんぱく質やビタミン、ミネラルをしっかり摂れる口の環境を整えることが、免疫力の維持・向上につながります。

全身疾患の予防
口腔の健康が保たれ、しっかり噛める状態を維持することは、全身の健康に直結します。
歯や歯ぐきが健康であれば、食べ物を十分に咀嚼して消化吸収を助けることができ、体に必要な栄養素を効率よく取り入れられます。
その結果、生活習慣病や感染症などの全身疾患を予防しやすくなります。

生活の質向上
健康な口内環境の維持により食事を美味しく楽しめることは、高齢者の生活の質向上に直結します。
さまざまな食材を食べられることで、食事の時間が豊かになり、口臭や見た目の不安が減ることで、家族や友人との交流も活発になります。

高齢者の口腔トラブル予防法

定期検診

定期的な歯科検診は、高齢者の口内環境を健康に維持するうえで欠かせません。
目安としては、少なくとも3か月に1回、可能であれば月1回程度の受診を心がけましょう。
定期検診では、クリーニングにより、日常の歯磨きでは落としにくい歯石やバイオフィルムを除去し、口腔内環境を整えることができます。
加えて、口腔機能訓練や栄養指導、全身疾患との関連に関するアドバイスも受けられます。
定期的に検診を受けていれば、口腔トラブルを早い段階で見つけて対処できるため、治療にかかる費用や通院の負担も抑えられます。

訪問歯科診療

通院が難しい高齢者にとって、訪問歯科診療は口内の健康を守るための大切な手段です。
訪問歯科診療では、虫歯や歯周病の治療、歯のクリーニングに加えて、口腔ケアの指導や嚥下機能の確認など、日常生活の質を支えるサポートを受けることができます。

嚥下トレーニング

嚥下機能を維持・向上させることは、誤嚥性肺炎の予防に欠かせません。
舌や咽頭の筋力を高めたり、嚥下反射を改善したりすることで、食事の際のリスクを減らすことができます。

こまめな水分補給・うがい

こまめな水分補給は、口内の乾燥を防ぎ、唾液の分泌を促すうえで大切です。
唾液には自浄作用があるため、十分な水分を摂ることで口内環境を清潔に保ちやすくなります。
食後や就寝前のうがいも、唾液の働きを補助し、口臭や粘つきの軽減につながります。

まとめ

高齢者の口腔トラブルは、加齢や全身疾患、薬の影響などが重なって起こります。
放置すると生活の質や健康に影響するため、定期的な歯科検診や訪問歯科診療、日々のオーラルケア、機能訓練、生活習慣の改善などで予防することが大切です。